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Chasing The Dream - 芝原 仁一郎

Written by Jin'ichoro Shibahara. 芝原仁一郎


シーズン 2007
2007年11月10日(土) Gilbert, AZ. ギルバート、アリゾナ:初戦

思っていたほど、ユタは寒くなかった。帰ってきたとはいえ、すでにエントリーしている試合がある。その準備であまりゆっくりしているヒマはなかった。私が日本にいる間に、ここでお世話になっている人たちが、私の車の面倒を見ていてくれて(なにしろヴィンテージの域に達してるからな、このプレリュード)、あとは右のヘッドライトと右のサイドミラーを代えるだけで、ヨシ!ってことだった(笑)。登録やら車検やらは済ませてくれていたので、それらを交換し、保険に加入して、11月9日南へと下った。

ケガをする度に、復帰後の「初戦」を迎える。今回も半年空いた。緊張していない、と言えばウソになる。ただ、この初戦のためにトレーニングをし、備えてきた。準備は出来ている。アリゾナはユタの真下に位置するが、その州境に「偉大なる峡谷」グランド・キャニオンが座する。ソルトレイクからお馴染みのフリーウェイI-15で一路ラスヴェガスへ。グランド・キャニオンを迂回する形で一度ネヴァダに入り、またアリゾナに戻る形だ。その途中、巨大なフーバーダムを通る。闇に浮かぶ幻想的なダムの景色に思わず車を停めた。さらに南東へと車を走らせ、キングマンのトラック・ストップで仮眠を取る。翌朝、州都フェニックスをかすめてギルバートへ。郊外の住宅地と言う感じで、街には高級住宅が並び、スーパーマーケットにも高級感が漂っている。デリのコーナーでは日本人女性の板前さんが寿司を握り、カウンターに座る客に提供していた。「ここアリゾナだよな!?」と一瞬疑ったが、4大スポーツ全てのフランチャイズがあるってことは、それだけ巨大都市ということか。ちょっと納得。

ロデオグラウンドは街の外れにあり、見つけるまでに少し時間がかかった。今回の試合はPRCAのイヴェントではあるが、先日日本でもテレビで放映された(!!) Xtreme Bullsの試合だ。つまりブルライディングだけ。PRCAにもとにかく色々なツアーや、サーキットがあって、ありすぎて説明するととんでもなく長くなるので、割愛する。PRCAがPBRに対抗して作ったブルライディングだけのツアーがXtreme Bulls。正式にはDodge Xtreme Bulls Tour。日本で放映されたのはその一番上のツアーで、Division 1と呼ばれ、アメリカでもスポーツネットワークの“ESPN”で定期的に放映されている。今回私が出場するのはその下、Division 2というマイナーリーグの試合。とはいえ、ここに送られてくるブルはいいのが揃っている。賞金額も高い。通常のロデオだとストック・ドロー(抽選)は予め行われているが、Xtreme Bullsの場合は試合開始90分前に選手に発表される。なので、私もここに着いた時点ではどのブルに乗るのかは知らない。「アリゾナである」、と聞いて知っていたのは、絶対、“Salt River Rodeo Company, LLCソルト・リヴァー・ロデオ社”がストックを連れてくる、ということだ。昨年、今年の春となぜか彼らのブルに当たることが多かったし、まずハズレがない。複数のストック・コントラクターがブルを連れてきていたが、そのなかに“Western Rodeo Companyウエスタン・ロデオ社”もある。ソルト・リヴァーと組むことが多い。オフィスでエントリーを済ませ、シュート裏で準備を始めた。ロープをフェンスにかけ、チャップスやヴェストも出す。少し早いがロープにロージンを刷り込ませた。半年乗っていないし、ロープがツルツルで、普段より粘着性を出すのに時間がかかると思ったからだ。

試合開始は7時。6時少し前にオフィスに戻ってドローを見た。当たったのはウエスタン・ロデオの#32 Captain Kirkキャプテン・カーク。どのペン(囲い)にいるか探しに行った。なにしろ50頭以上のブルがいる。探すのも大変だ。やっと見つけた彼の最初の印象は「デケぇ」。2000パウンド近いな、しかも角まで太くて長い。見覚え安いから、いいか。

それから入念なダイナミック・ストレッチで一汗かく。ストレッチをしながらウォーミング・アップも兼ねるので、試合前には必ずするようにしてる。自分の名前がファースト・セクションにあったので、オープニング・セレモニーのあとすぐに始まる。選手一人ずつ紹介して入場するらしい。準備をしている間にいつかのサウス・ダコタのスタージスで行われたPBRの試合で会ったデインが声をかけて来た。懐かしい。相変わらずのスキンヘッドで、あのときの女の話をしている。6時45分。セレモニーのために、シュート・ボスから全員チャップスを着用するよう伝えられる。今日のシュート・ボスはJudd Mortensenジャド・モーテンセン。かつてPBR World Finalsにも出場した経験のある名選手だ。彼とはアイダホとカリフォルニアのPBRの試合に共に出てた。これまた再会というやつで、どこで誰と会うかわからない。そうこうしてるうちに、キャプテン・カークが左サイドのデリヴァリーに送られてきた。シュートに入った彼を間近で見るとまたデカイ。ロープを巻いて、いったん離れる。セレモニーが行われ、いよいよだ。


ジンのブルライディング(動画 WMV 714KB)

高画質版はこちら(4.83MB)

今回から、リアルウエスタンに提供してもらったデジカメを持参している。シュート裏にいたカウボーイに頼んで撮影してもらうことにした。出番が回ってきて、シュートの中に入り、ロープを手に巻く。待ってる間は、唇が乾いて何度も水を口にしたが、場の雰囲気だろうか、この時点では妙に落ち着いていた。さて、ここからだが、百聞は一見にしかず、映像で見てもらったほうがいいと思う。

以前、ブルの動きで「ターン・バック」というのを説明したと思うけど、今回の彼がまさにそれ。最初、彼の頭は左を向いているのに、最初のジャンプで着地した時点で180度反対の右を向いているのが分かると思う。ゲートが開いた瞬間に反応する彼の身体能力の高さで、体重が900キロ近いってことを考えると、この速さで動くってのは、ちょっとすごい。そのまま彼は右に回転を始める。彼もアリーナの壁にブルライダーがぶつかれば落ちるだろうと考えて、なるべく近いところで回ってる。それくらい賢い。重いだけに、回転はそれほど速くないけど、蹴り足の伸びはかなり高い。シュートやゲートの一番高いバーは大体180センチの高さに設定されている(6フィート)。時間は約5秒。ジャッジに後から聞いたブルのスコアは41点。

さて一方自分はと言うと、上半身の姿勢はよく保てていた。右腕を90度に折り、ジャンプするときに前へ出し、着地するときに右斜め下45度のところ、それと肩から後ろのラインに行かないところで止める。“Wipe my handワイプ・マイ・ハンド”という腕の動かし方で、左手で乗るブルライダーに対して反対側、つまり今回のキャプテン・カークのように右回りのブルに対応するときの乗り方だ。横Gが外へ外へかかるので、右腕が肩より後ろに行ってしまうと、ケツの右半分が浮いて(体がねじれてしまう為に)、あとは落ちるだけ。そのとおりになったのが4回目のジャンプくらいで、右腕が伸びてしまってる。両脚は少し緩めておいて、常に真下に行くようにしていた。左足で軽くスパーリングもしているが、右腕に釣られて、ケツが浮き、さらに右足も外れてる。アゴも浮いてしまってる。ただ、乗ってるときの感触は良かった。途中までは完全にコントロールしている感覚があった。が、それも5秒までだ。

落ちた後、はいつくばってブルから逃げた先にジャドがいた。「You’re alright!!」と言って抱き上げてくれた。そして、「Man!! Every time I see you, you get better!!」と続けた。訳すと、「お前、見るたびに上手くなってるな!!」。確かに。これが2年前なら、2秒で吹っ飛んでいただろう。

この日40人のエントリーで、予選ラウンド(Long Goという)で8秒のったのは13人。決勝ラウンド(Short Go)に残るのは12人。デインは2位で通過したものの、ショート・ゴーで落ちた。すべてが終了し、ギアをまとめ、アリーナを去るときにまたジャドに会った。固い握手を交わし、去り際に言われた言葉は、「Keep riding, man!」。訳す必要は無いだろう。アメリカやカナダで知り合ったブルライダー達と再会するたびに言われる言葉だ。

私を、前へと進ませてくれる温かい言葉だ。

アリーナではアフター・パーティが開かれていた。選手と観客が共に飲んでいる。ロデオやブルライディングの試合後には良く見られる光景だ。が、今日はそういうわけにはいかない。私も、他の何人かの選手も明日の南カリフォルニアでの試合がある。すでにアリーナを後にした連中もいる。向かう先はブロウリィ。ここから200マイルほど西だ。

車のガラス越しに刺す日差しで少し肌が焼けていた。昼間の気温は30度を越えていたのに、夜は意外と涼しい。私もフリーウェイへと戻り、初めてのアリゾナを後にした。

芝原 仁一郎


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