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Chasing The Dream - 芝原 仁一郎

Written by Jin'ichoro Shibahara. 芝原仁一郎


シーズン 2008

10月 4日(土)
Lloydminster, SK., Canada ロイドミンスター、サスカチュワン、カナダ:少年
Sasktel Invitational Rocky Cup presented by Dickies in Lloydminster, SK.
サスクテル・インヴィテイショナル・ロッキー・カップ・プレゼンティッド・バイ・ディッキーズ・イン・ロイドミンスター・サスカチュワン(PBRカナダ)

アッシュの家は、彼のおじいさんから譲り受けたという100年近い歴史を誇る家だった。彼とカトリーナで壁のペンキを塗り直し、家具や調度品も使えそうなものはそのままの形を残して使っていた。ウェスタン・アーティストでもある彼のスタジオが2階にあり、絵画や一コマ漫画の作品が所狭しと並んでいる。リヴィングや廊下にも彼の作品が掛けられていた。

カトリーナが作ってくれた特大のオムレツを朝食にしたあと、アッシュが家の周りとこの町を案内してくれた。人口わずか41人という小さな町で、メイン・ストリートといってもあるのは食品スーパー兼ガス・ステーション、カフェ兼バー、ホール、図書館のみ。スタウトンの隣町にもここと似たような小さな町がある。

そのあと、3人で彼の父親の牧場まで行った。目の前にあるのは広大な土地のみ。ここでアッシュのブルライディング用のブルが育てられていた。

「いつでも練習会はやれるから、来るときは連絡しろよ!」

2〜3年後にはPBRにブルを出したい、というのが彼の願いだ。

アッシュの家に戻り、急いで準備を始める。ここからロイドまでは1時間半。ロイドに着いてから、町のギャラリーに寄り、アッシュの作品に関する打ち合わせをする。背景の紙の色と額縁の選択だった。彼のアーティストとしての一面を、のぞかせてくれた。

会場に着いてすぐ、ブルの抽選を見に行く。私があたったのは#C2S3 エッジ(Edge)。残念ながらストック・コントラクターの名前はハッキリ分からなかった。彼の写真も撮らなかった。それほど気にしていなかったからだ。というのも、今これを読んでいる方も、このエッジをすでに見ているからだ。前夜、あのタナー・ガーリッツが乗ったブルがこのエッジ。右のデリヴァリーからファースト・ジャンプのあと左にコーナーを決めて、そのまま左へ回る。カナディアン・チャンピオンになったタナーが落とされた、あのブルだ。

私の出番は25番目。時間はある。念のため、肩のことをデイルに話してみた。

「悪くするリスクをとるか、棄権するか」

「リスクをとって乗るよ。テーピングで肩を固めたほうがいいかい?」

「いや、それは止めたほうがいい。そういう問題じゃないんだ」彼がため息をつく。

ロデオに係わるケガに関して、カナダ国内で彼ほど信頼の置ける医師はいない。ブルライダーだけではなく、数え切れないほどのロデオ・カウボーイの診察をしている。彼の言葉に耳を傾けるべきなのだが、最終判断は選手に委ねられている。残念ながら彼に選手を止める権利はない。

昨夜と同じく派手なオープニング・セレモニーで幕を開ける。出場するブルライダー全員がアリーナの中で並ぶ。PBRワールド・ファイナルズ経験者の4人、チャド・デントン、コーリィ・ナヴァーレ、コーリィ・ラーシュ、ロブ・ベルが一人ずつ紹介され、最後にPBRカナダ代表として8月にメキシコで行われたPBRワールド・カップに出場した4人、アーロン・ロイ(Aaron Roy)、ヴィンス・ノースロップ(Vince Northrop)、タイラー・パンクウィッツ、ジェシィ・トークルソンも紹介された。驚いたことに、今日のゲート・マンは過去カナディアン・チャンピオンにもなり、PBRワールド・ファイナルズにも出場経験のある、あのジャスティン・ヴォルツ(Justin Voltz)だ。また懐かしい顔がいた。


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しょっぱながタナー・ロバートソンだった。が、前夜痛めた左腕を押さえて控え室に帰ってきた。表情が冴えない。アリーもそうだった。

歓声やブザーが入り混じって聞こえてくる。少し長めにストレッチを行い、準備を整えてから、右サイドのシュート裏へ行く。誰が8秒乗って、誰が落ちたか、まるで見ていなかった。ちょうど私の前で休憩が入り、シュートにいるエッジを前にして、間が入った。今回の動画は2つある。頼んだ人が気を利かせてくれて、乗る直前のグラブを左手につけるところまで撮ってくれていた。

こういう準備の段階まで撮ってくれたのは初めてじゃないだろうか?続いてシュート内で、ブルに直接またがらず、シュートに足をかけたままロープを温めているが、前日のタナー・ガーリッツの映像でもあったように、エッジはシュート内であまり落ち着きがない。スポットも入ってくれているが、出る直前まで、彼にまたがるのは待っていた。前の選手のブルが退場するのを確認してから、左手にロープを巻き込む。両脚の位置を確認して、首を縦に振った。

大きく前に出る。そのまま前へ2度目のジャンプ、直後に左へのコーナーを決め、左に回る。こう動くことは分かっていた!にもかかわらず、そのスピンに入ったところで両足が外れた。彼の後足が蹴りあがったその勢いを利用して、伸びた左腕を引き付け、胸を張り、両足を元の位置に戻さないといけないのに、出来ていない。あっさり振り切られた。

左肩から上腕にかけての痛みがさらに増していた。

ブルロープを拾い、アリーナから出る。シュート裏で肩の痛みをこらえていると、一人の少年が観客席を通り抜けて駆け寄ってきた。私のところへ、まっすぐに来た。

「Good try!!!」

「Thank you.」

そのあとも、彼は私の側から離れずに、話し始めた。彼は私のライドを見て感動したらしく、「少なくともジンはtry(試みること)したよ。たいがいの人はそれすらしないよ」。

日本という国が、どのような国かは知らない少年だったが、私がカナダやアメリカから来た選手ではないということは理解していた。途中、コーリィ・ラーシュが私の側に来て、彼としばらく話し込んだが、その少年は私たち二人の側を離れず、ずっと会話を聞いていた。コーリィが去り、その少年がまた話し始めた。PBRワールド・ファイナルズに出場した経験のあるコーリィではなく、私と話したがっていた。

「今13歳だけど、僕もこのあいだスティア(雄の子牛)に初めて乗って2秒で落ちちゃった」

「オレも今日はそんくらいだったんじゃない(笑)? それじゃ、君はブルライダーになるつもりなの?」

「うん」

「あ、でもまずお母さんにブルライディングやってもいいかどうか聞いてみた?」

「まだ」

「もし、お母さんに聞いてみて、いいって言われたら、迷わずやってみなよ。15歳くらいで高校のロデオから初めても十分遅くないと思うよ。ここにいる若い選手たちもそうやってブルライディングを始めて、早い選手だと18歳でプロになってるから」

「そうなんだ」

「もしかしたら5年後に君もPBRブルライダーになってるかもよ」

そう私が言ったあとの彼の表情というのは、いまでも忘れることが出来ない。満面の笑み、というか、彼の眼の輝きが明らかに増した。私は肩にアイシングをしたかったのだが、そんなことは忘れてしまっていた。彼は私と話したがっていたし、それを無視することは出来なかった。

「実はトイレに行きたかったんだけど、ガマンしてたんだ。ちょっと話したかったから」

「そうだったの!? じゃ、はやく行って来なよ」

道理で、足を交互に組み替える仕草をしていた。

「うん、でもまだ帰らないよね、ここに戻ってくる?」

「ああ、ブルロープとかギアを置きに行って着替えたら、またここに戻ってくるよ」

「じゃ、あとでね!」

彼はそう言って、トイレへ走っていった。

私は控え室に行き、デイルに声をかけた。最後に彼に言われた言葉が「Good luck for your surgery.」。気になる一言だった。

カトリーナが買ってきてくれていたサンドイッチをほおばり、一息入れてから、さっきの場所へ戻った。残念ながらあの少年とはすれ違いで、反対側のアリーナ席を歩いている彼を見つけることが出来た。彼と話す機会はそれっきり、なかった。

この夜のうちにアッシュとカトリーナとともにサスカトゥーンまで行った。彼らは翌日、ここからフライトで東のニュー・ファウンドランド(Newfoundland)へ向かう予定だった。彼らのハウス・トレィラーで数時間の仮眠をとったあと、昼過ぎのバスでウェイバーンまで帰ってきた。夜7時を過ぎていたが、ジェイクが迎えに来てくれていた。彼の家に向かうピックアップ・トラックの中で、あの少年の話をすると、「それって、もしかしてジンが彼に夢を与えたんちゃう?」と彼に言われた。「マジ?!」。

そう言われると、そうかも……。あのときの彼の表情は、それゆえにあれだけ輝いたのだろうか?

いままで、私は自分の夢だけを追い続けてきた。他の色々なスポーツ選手たちが“子供たちに夢を”というなかば「使命」を帯びているかのような発言や行動に、私は疑問を持ってみていた。今自分がなにげない13歳の少年との会話の中で、もし彼に夢を与えたとしたら、数多くある選択肢の中で、彼がブルライディングを選ぶ“きっかけ”を与えたとしたら、正直少し戸惑ったが、ブルライダーとして、こんなに嬉しいことはない。

昨年11月から始まった2008年シーズンを締めくくる出来事として、この少年との出会いは忘れられない。プロのロデオ・カウボーイとして成長する“きっかけ”を、むしろ私が彼から与えられたのかもしれない。

芝原仁一郎

ウェスタン・アーティストとしての私の友人アッシュ・クーパーをここで紹介しておきたいと思います。彼のウェブサイトから直接彼に注文が出来ます。水彩画、ペン画、一コマ漫画、ポスターなどがあります。また、“Cowboy Country”というカナダで制作されたテレビ番組の司会もこなしています。DVDの基準の違いがありますが、興味のあるかたは是非観てみてください。

彼のウェブサイトから直接彼の作品を購入できます。http://crashcooper.com/

もし日本から注文がきたら送ってくれるかい?との問いに対して、「もちろん!喜んで送るよ」と言ってくれました。

2008年シーズンは、これで終わりです。2009年はいよいよプロ選手として活躍します。
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